2022年 菊花賞を振り返る
※私は④番ボルドグフーシュから、BOX馬券を購入しました。
18頭がゲートにおさまる。
少しの静寂。
辺りから離れる係員。
開いたゲート。
心中の本命④番ボルドグフーシュくん、今日もスロースタートで開幕。毎回後ろからだもんね、今日も一発末脚よろしく。
抜群のスタートを切ったのは⑩セイウンハーデス。鞍上に気合を付けられ、発馬から三秒そこらで今年のペースメイカーが決定した。
同じく好スタートの⑥ビーアストニッシドが番手かと思われたが、最内を確保するや勢いを抑える鞍上。
この機に外から枠を不安視されたオレンジ帽の実力馬⑭アスクビクターモアが変わって二番手を確保する。一応言っておくと対抗一番手の印打った。めっちゃいい位置でもう最高。ついでに言っておくとセイウンハーデスが対抗二番手。始まってまだ十数秒、ニヤニヤが止まらない。
一周め最初のコーナー。アスクビクターモアに続いて先行する同色の帽子。
あれ?これ⑬ディナースタ?
そんなに出足あったっけ。馬券購入者の八割は君が後ろから捲り打つと思ってたはずだよ。先行かつ捲りなんて見せてくれた日にゃ、馬券の当たり外れなんてもうどうだっていいよみんな。
そうなるとやっぱり気になる本命ボルドグフーシュ、君はどこを追走中だろうか。スタートはいつも通りだったろう。カメラワークが先頭から順に馬を追う。
はいはい前哨戦一緒に走った勝ち馬⑱ジャスティンパレスがここね。
でその内に一番人気の①ガイアフォースがいます、はいはい。
⑯セレシオンがいてー、この辺までが中団かな。んでー⑪ドゥラドーレスがいてー、
ボルドグフーシュはこの辺と。
ほおーこの辺か。ほぉ…この辺か。思ったてたより前め。
馬群からは離されていない。レースが動いてもついていけるポジション。彼より後ろには五頭ほどだろうか。
あるな。いやーあるなこれは。あるぞボルドグフーシュ。
最内走ってるでしょ。自分から動ける馬群の後ろでしょ。ね、あるでしょ。
ホームストレッチに入ってくる各馬。
先頭は快調ペースのセイウンハーデス。三馬身程度離れて私の対抗一番手。
ああいい感じだ。これはいい感じ。
これでミドルペースならアスクビクターモアは固い。そこに最後ボルドグフーシュが突っ込んでくる。完璧。ついでにセイウンハーデスも残っちゃったり...あはははニヤニヤが増してしょうがない。
最初の1000M。
通過タイムは速報で58秒7と出た。
ちょっと待って。
えっ速くない?だいぶ速くない?
本当にちょっと待ってほしい。
あれ今日天皇賞秋だったか?
先頭パンサラッサか?
違うよね阪神競馬場でしょここ。菊花賞でしょ今日。古馬だもんパンサラッサ。
妄想から現実に引き戻され真剣な眼差しに戻る私は、現実的な理想にすり替えて整理を始める。
このペースで三馬身差追走は番手でも間違いなく速い。対抗二頭共倒れもありえるのではないか。
いやまだ2000メートル残っている。そう、今日は菊花賞、長距離戦。ずっとこのペースで走られてはどの馬も実力が出せない。必ずペースの緩む区間がやって来る。
阪神開催の昨年だって、中間の1000Mはこれでもかという落差のある緩いラップが刻まれた。京都で行われていた二年前までだって、中盤の1000Mは緩々の息入れ区間なのだ。
ゴールドシップが勝った2012年なんかは全然緩まなかったのだけれども。
だから緩む。絶対緩む。58秒7は速い。
そしてアスクビクターモアはタフなペースに強い。持続力に秀でたレースぶりでここまでの人気を集めている。中団グループは皆辛いペース。そう考えれば対抗一番手にとっては別に恐れるような状況でない。むしろ好都合。このままでいい。
そんで直線ボルドグフーシュがズドン。たぶん。
だからセイウンハーデスよ好きなようにに逃げるがいい。たぶん。
ゴール板を過ぎて残りあと一周。
予想通りペースを落としたか。セイウンハーデスが後続勢を引きつける。後ろにアスクビクターモア。その後ろに内のビーアストニッシドと外のディナースタ。
あ、ディナースタ。
気付いてしまう。
このペース、この位置でディナースタが得意の捲りでも決めたりなんかしてくれたら私の馬券は散ることに。
先頭と各馬の差は縮まっているので、間違いなくペースは緩んでいる。ディナースタが捲りを敢行するのは、決まってバックストレート。もうすぐバックストレート。
できることなら今日は捲らないでほしい。鞍上もハイペースは体感していることだろう。先行して欲張って捲るなんて流石にそれは、流石に。
幸か不幸か願い通じたかディナースタの捲りは発動できなくなる。
先頭のセイウンハーデスがコーナーから直線にかけて緩んだペースを元に戻したのだ。
ディナースタの捲りを予期していたのは馬券購入者だけでない。
ハーデスの鞍上もその一人だったのかもしれない。あれだけの乱ペースで前半をメイキングしながら、伏兵の台頭は俺たちだけで充分なんだよと。レースの鍵を全て一人で請け負うつもりだったのかもしれない。幸騎手の計らいか、ハーデス卿の暴走かは知らないが後続との差を再び広げていく。
後続までは六馬身近い差に広がった。集団は変わらずひと塊で、ボルドグフーシュも食らいついている様子。
ポジション争いがここから始まる。なんとかボルドグフーシュは引き離されないでもらいたいところ。ジャスティンパレスのすぐ後ろで内からポジション進出をかがうゼッケン④番ボルドグフーシュは鞍上吉田隼人さん。
第三コーナー入り口で虎視眈々と先頭との差を縮めるゼッケン⑭番アスクビクターモアは年明けからずっと手綱を握る鞍上田辺さん。ちらほらとジョッキーの手が動き出す各馬たち。
進出を促すようにボルドグフーシュも少し手が動いている。軽い動作でどうやらバテてはいない模様。きっと大丈夫。
コーナーの中間でセイウンハーデスを射程圏に入れたアスクビクターモアが、外から先頭に躍り出る勢い。田辺騎手の手はまだ動いていない。最初も中間もハイペース。それでいて持ったままの早い仕掛け。対抗二番手セイウンハーデスは悔しいが垂れてしまった。入れ替わり先頭に立つアスクビクターモア。耐えてくれよ頼むから。
同じ時をして、本命馬は進路を外に切り替え豪腕を奮う吉田騎手がゴーサインを送る。しっかり、しっかり加速している。加速できている!
今日も、その末脚、炸裂に、期待大!!
直線の入口で先頭は後続に4馬身つけたアスクビクターモア。
外から力強くボルドグフーシュことボルシュ。
ボルシュ!!
伸びろ!伸びろ!
伸びてる!はい、伸びてます!
内からピンク帽も一頭。なんだお前。
二番手争を併せ馬で叩き合い。制せよボルシュ。馬連まで取らせてくれボルシュ!
しぶといピンク。
負けじとボルシュ。
先頭の背中を追い坂を登る二頭。
三着までは恐らく決まった。
あとは根比べ、どの馬が冠を手にするのか。
先頭のアスクビクターモアまでの差も縮まってきた。これはもしや、あるんじゃないのか。ボルドグフーシュが菊花賞馬の称号を手にできるんじゃないのか。
伸びろボルシュ!
伸びろボルシュ!
ピンク帽にはもう競り勝てた。馬連も取れた。
迫るゴール板。
栄冠を手に!ボルシュに栄冠を!
最後のひと伸び!ボルシュー!!
大歓声の決着。
今年の菊花賞馬の称号に輝いたのは、⑭アスクビクターモアだった。道中の緩みがほぼないペースを、強い馬のそれで勝ちきった。
僅かハナ差届かず二着に敗れたボルドグフーシュだったが、ハナ差では語れない強さを勝ち馬に見は見せつけた。
近年ではなかなか見ることのできないスタミナレースの長距離戦で、非常に熱い三分間。菊花賞への満足度は、競馬を初めて最も高いと言えるのではないだろか。
ラストの直線、本命馬への過集中からピンク帽としか認識していなかったジャスティンパレス。正直甘く見ていた。
買ってないって。